『こわい、こわい、こわい? しりたがりネズミのおはなし』
ラフィク・シャミ/文 カトリーン・シェーラー/絵 那須田 淳/訳
西村書店/刊
本体1,500円(税別)
ユーモアのある訳が楽しく、エピソードも子どもの好きなところ
子どもは怖い話が大好き。「こわいおはなしありますか?」と図書室へやってくる子が必ずいます。この本はコワイ気持ちがわからなくて探しに出かける子ネズミのミナのお話。表紙には今にも食べられてしまいそうな子ネズミと大きな猫の目。大判の絵本いっぱいに描かれたライオンやゾウ、ヘビたち動物は迫力十分。向こう見ずなネズミの子にハラハラしながら読者はお話に引き込まれていきます。どの動物も答えを教えてくれませんが、長生きのカメのおじいさんは二八〇のコワイを「あ」から順に語り始めます。那須田淳さんのユーモアのある訳が楽しくこのエピソードも子どもたちが大好きなところです。最後にとうとうコワイという気持ちを心の底から味わったネズミの子。迎えてくれたおかあさんネズミはコワイ気持ちを消す方法を知っています。安心できる場所に帰りつき兄弟たちと眠りにつくミナ。読者もほっと胸をなでおろすことができます。
さまざまな感情にまだ名前を持たない幼い子どもたちは絵本を繰り返して読むことで、ゆれうごく主人公の感情を何度でも体験することができます。豊かな感受性はこうした積み重ねから育まれてゆくのでしょう。幼い子が安心して心も体もゆだねることができる人と一緒に楽しむことをおすすめしますが、遠目が聞くので多数への読み聞かせにも向く絵本です。作者のシャミはシリア生まれ、ドイツ在住の著名な作家です。ドイツにはグリム童話「こわがることをおぼえるために旅にでかけた男」というお話がありました。較べてみるのも面白いかもしれません。
(評・千葉県袖ヶ浦市立昭和中学校読書指導員 松井 恭子)
(月刊MORGENarchive2018)